「パリ Paris」 カメラマン都筑 清の写真ブログ

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2006年 04月 16日 ( 1 )


2006年 04月 16日

フランス CPE(初期雇用契約法)vol.10 決着

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フランスの CPE(初期雇用契約法)をめぐる問題についてレポートをして
きましたが、今日はこの一連の事件をまとめてみたいと思います。

<決着>
4月10日フランス政府はCPE法案を事実上撤回。4月13日CPEにかわる若者雇用促進
法案を可決。これによると、16歳から25歳までの無資格の若者を雇用する企業に政府
から補助金が与えられることになる。

要するに、26歳以下の若者の雇用を不安定にするCPE法案を撤回せよという、学生や
労働者団体の主張が全面的に認められ、勝利したということ。

政府の横暴に対し学生、労働者が一致団結してマニフ(デモ行進)という行動をおこし
ついには、政府側を打ち破った。民衆の力が勝利した。フランス万歳。単純に考えれば
そういうことになる。

しかし、この事件について現場で見てきた僕は、何か腑に落ちないという思いを持った。

そこで、以下この問題に関する個人的な見解を述べたいと思う。

<1、シラク大統領の決断について>
この事件は1968年の5月革命以来の大きな社会運動と言われてきた。当時シラク大統領
は雇用担当大臣としてド・ゴール大統領の下にいた。68年の5月革命で学生運動がさかん
になった時、ド・ゴール大統領は「バカ騒ぎはごめんだ」として当初とりあわないという姿勢を
見せた。それがただ事ではないことになり対応したが後手にまわり、ついにド・ゴール大統領
は政治家として寂しい末路を迎えることになった。当時のことをシラク大統領はよく知ってい
るだけにド・ゴールの末路が頭をよぎったのであろう。妥協案をだしてみたものの、受け入れ
られないと知るにいたり、下手に長引かせるよりも「撤回」という結論を選んだ。
それはシラク大統領がド・ゴールのような末路を歩みたくなかったからであり、失業問題を
信念をもって解決するというのではなく、最後まで「良いおじいちゃん」でいたかったから
では、なかろうか。

<2、学生が勝ち得たもの>
高校生から大学生まで皆がマニフに参加し、こうして政府の法案を撤回させた。フランス
革命以来の伝統であり、民主主義の根幹を担う「集団示威行動」が政府を動かした。
日本で法律を勉強したことがある僕は「シュウダンシイコウドウ」が本当にこんな風に
政府を動かすことがあるのだと素直に驚いてしまった。日本では到底考えることの出来ない
ような事がこの国では実現された。2006年のCPE撤回事件として歴史の1ページになる
のでは、なかろうか。しかし、これで学生が得たものは「現状維持」に過ぎない。もし、
就職が上手くいけば従来どおりということ。高い失業率。70倍ともいわれる公務員試験。
スタージュと称するほぼ無給に近い何年にもおよぶ不安定な地位は変わらない。ここで
解説をすると、公務員天国のフランスでは公務員試験の倍率が60〜70倍と言われている。
また、職務経験が重視されるため大学を卒業してからもスタージュという研修生をしな
ければならない。企業としては研修生は正規雇用してしまうよりも負担も少ない。いったん
雇用契約すれば辞めさせられない。研修生は27、8歳になっても月の手取りが5.6万円
ということもある。CPEは撤廃させたが、学生が勝ち得たのはこの現状だけだった。


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<3、カスール問題>
カスール。主に郊外に住む移民系若者を中心とする無職者層の人々。暴動の際に投石から
放火、暴行行為をする「壊し屋」=「カスール」と呼ばれる。以下、カスールとする。
僕はこの取材を通じて、ひとつの疑問を感じていた。学生や労働者、家族連れから老夫婦
まで、まるで歩行者天国のようになった大通りを皆が横断幕やプラカードを持って行進する。
それがマニフ(デモ行進)のごく通常の光景。通りにはホットドッグやサンドウイッチ
のスタンドが出る。ビールを飲みながら陽気な笑顔で沿道の人達に手を振る。
ところが、ゴール地点では一変し、プラカードのひとつも持たないカスールの連中がゴミ箱
からあさってきたビール瓶を警官隊に投げつけ、放火、暴動となっていく。ここで注意して
もらいたいのは再三書いているように、マニフの学生と暴動の主体であるカスールは違う
グループの人達であるということ。では、本来CPEとは関係のないカスールが、なぜ暴動
騒ぎを起こすために、わざわざ郊外からパリにやってくるのか、この疑問が僕の中で感じ
られた。なぜ、カスールは暴れるのか。その疑問のひとつの答えを僕は目撃した。それは
盛り上がらなかったプラスディイタリーのデモの終点でおこった。車座になって座る普通の
大学生をカスールと思われる若者がいきなり蹴飛ばした。カスールはその場を去り、学生
は鼻を押さえてうづくまる。その暴力には理由は感じられなかった。僕がその時に感じた
ことはカスールは大学生が嫌いだということ。大学どころか高校すらまともに行けない。
長期雇用や公務員になることなど夢みることすら出来ないカスールの連中にとって
CPEに反対する「いい身分」の大学生に嫉妬どころか憎悪すら感じているのでは
なかろうか。
集団でお金を持っていそうな学生を囲んでボコボコにして金品を奪う手口も彼等の感情
のあらわれとも言えよう。そこで、カスールは憎き学生達のマニフというお坊ちゃん達の
やっている事をともかくぶっ壊してやろうと思った。もちろん警察や権力も憎い。気晴らし
ついでの暴れてやる。オレ達をなめるな。これが暴動をおこしたカスールの動機なので
はと、僕は現場で感じた。

<4、補助金問題>
このカスール対策として、新法案では16〜25歳までの「無資格(学校を出ていない)」
若者を雇用する企業に補助金を与え、その財源はタバコなどの税率を上げるとして
いる。この補助金を目当てにどれだけの企業が彼等の雇用を増やすかは定かではない。
いずれにしても、補助金という何でも政府が保護ないし保障するというやり方でよいので
あろうか。「仕事なんかないさ」と言いながら大きくため息をつき、例の肩をすくめる動作
をしてみせる20代から30代のフランス人を何人も僕は見た。それでも彼等は何年も前に
失った職の失業保険で何年もやってきているそうだ。あとは国が保障すればいいという
体質。食べ物や恋愛に対する情熱を仕事に対しては持とうとはしない人がフランスには
多いように感じらる。なんでも国の補助金に頼ろうという解決策は、破綻という結論を先
延ばしにしている。国がこんな大盤振る舞いをしてはやがて国家財政が破綻すると内心
わかってはいるものの、その破滅に向かってとりあえずは進まざるを得ない姿に日本の
年金問題と同様の病巣を感じた。


<5、火炎瓶の男>
火炎瓶に火をつけ警官隊に向かって投げつけた
男は前述のカスール問題からすればカスールが
火炎瓶も投げたと言えば、わかり易い。
しかし、現実には白人の中年男性がやっていた。
では、なぜ彼は火炎瓶を投げつけるのかという
疑問が生じる。ここからの答えは僕の推測に
過ぎない。CPEの問題は学生や労働者の反対
行動という形でフランス国中の注目を浴びた。
そして、政府の横暴を許すなという形で国民
一般の支持を得ていった。この現象を面白く
ないと考える政治的思想を持ったグループも
存在している。つまり、学生運動、労働者運動
という従来の左翼的運動が上手くいくことを
快く思わない人達が、この運動をネガティヴな
イメージにするために暴動騒ぎにしてしまおう
として火炎瓶を投げ込んだと僕は考えました。
つまり、日本の報道もそうかもしれないが、
学生達の健全な運動というよりも、暴徒と
化したパリの学生が警官隊と衝突という形の
方が、よりネガティヴなイメージとなり国民の
支持も得られなくなる。そのため、イメージを
悪くするために、火炎瓶や投石といった過激
な行動をマスコミの前で演じて見せたのでは
ないかと僕は推測しました。


長い文章を読んでいただきありがとうございます。
フランス社会が抱える様々な問題がこのCPEという形で表面に
出てきたという感じがしました。それが良い悪いという二元論的
な考えではなく、いろいろな側面がフランスという国にもあるという
事をこの問題を通して僕は伝えられればと考えました。


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by paris-tsuzuki | 2006-04-16 07:45 | ジャーナリズム